会誌-「ザラスMCPG マニュアルvol.1」
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■ §3.4 シャル族 [リアクションNO.4−0]
祖神:神狐シャル(智謀神マンジュスーリーの神将) 髪:栗色/瞳:真紅色/肌:小麦色 属性=地:14/水:16/風:17/火:12/天:23/空:10/人:8 人口:15% 平均寿命:55歳 性格:沈着、冷静怜悧 剣勢:謀剣 能力値へのボーナス 知力(IN)+10 天運(LU)+5 姓の例
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「……そうか、ウォウルの邑宰が亡くなったか」 軍司から手渡された書簡を見やって、ヌーグ=シャルは左手の扇を止め、机の上に投げ出した。 「確かな情報か、これは……と、確かめるまでもなかったな」 ヌーグは、このキーサ王国の最高権力者、王宰である。この位に就いて六年目、つまり、「セルフィアー全土」という思考法を五種の民すべてに呼び起こしたあの事変の発案者であり、実行者であり、実戦指揮官でもあった。あの事変を起こしてすぐの頃は、驚きの声ばかりが先行して何ら芳しい反応が見られなかった。そのような中で、非公式ではあったが、すぐさま書簡をよこしてきたのがウォウルの邑宰であった。 「この度の儀、まことに壮挙と心得ている。四百年の永きにわたる平和は、我々に富と繁栄ではなく、停滞と閉塞をもたらした。邑という狭い世界を打ち砕くためには、貴公のごとき手段をもってする他はないであろう。私は既に老兵ゆえ、これから事を起こすことはできないが、次の若い世代に期待したい……」 ヌーグは、このセルフィアーに乱世をもたらそうとしている。そのことに対し、何て非道な、と非難する声ばかりが聞こえてきており、本当に自分のしようとしていることは理にかなっているのか、懐疑的になっていた。ところへ来たのが、この書簡であった。本当に彼の思うところを理解してくれていたのは、ウォウル邑宰ただ一人であったといってもよい。すでにして賢才の評価を得た先輩からの言だけあって、ヌーグは大いに力づけられた。 そのウォウル邑宰が亡くなった。一つの時代が、確かに終わったのだ。 ……という実感を噛みしめているヌーグに遠慮して、しばらく軍司は黙っていたが、その時間があまりに長いので、おもむろに口を開いて沈黙を破った。 「王宰殿、もう一つ重大な報告がございます」 「どのくらい重大だ? 今の訃報と比しては?」 「こちらの方が重大です。おそらくセルフィアー全土を揺るがすほど」 ヌーグは机上の羽扇を拾い上げ、椅子に深く座した。白い羽根の塊が、ちょうど顔の下反面くらいを隠している。 「聞かせてくれ」 「そのウォウル邑宰の後継者が、ウォウル王を称しました」 「王号を?」 ヌーグは身を乗り出した。口許を覆って表情を隠しているつもりなのだろうが、目が何よりも雄弁に驚きと好奇の表情を示している。 「後継者とは誰だ。邑宰── 「一四歳といいますから、それほど幼いとは言えないでしょう。まあ、一邑の主となるには若すぎますけれど」 「一四か。うちの王族の初陣より早いじゃないか。そんな若い奴が邑宰となり、王を称したのか……」 セルフィアーは確かに変わりつつある。 能力がなくとも年さえとっていれば何とかなったような時代は終わり、能力があればどんなに幼くとも表舞台で働ける世の中になるのだ。これもまた、自分のしてきたことの効果なのだろう。ヌーグは心中に呟き、面に静かに風を送った。 「しかし、それが臣たちに承認されたのか? 先邑宰はつねづね、群臣が頭が固い、と嘆いていらしたが」 「そこですよ」 軍司は柳葉の触れ合うような声を立てて笑った。 「私もその場にいたわけではないので、事実かどうかは知らないのですが……」 と前置きし、初邑議の模様を語り聞かせた。聞き終わると、ヌーグは扇を置いて膝を打った。 「 「使者を送りますか?」 万事打つ手の早いことで高名な軍司は、きわめて現実的な発言をした。 「まあ、待て」 扇を取ってぱたぱたと扇ぐ。こうやって頭を冷やしてから策を練るのが、ヌーグの癖である。 「使者は出そう。だが、王号を名乗った事への承認では拙い」 「では、王号は認めないのですか」 「そうとは言っていない。ウォウルのナーラダ家といえば、独立戦争の英雄の血筋、しかも四百年もあの大きな城邑を治めてきた。その点では我がシャル家と変わりないのだから……」 「では認めるのですね」 「軍司、少し黙っていてくれ、貴女は結論が早すぎる」 ヌーグは苦い顔をした。そしてまた扇ぐ。 「血統的には認めてもよい。だがまだ時期が早い。認めるのはその邑宰の……名は何といったか」 「ナーラダ・ヴィレクです」 「そのヴィレクという少年の人物と実力を見きわめてからだ。そういうことだが、分かったか、軍司?」 「はい、分かりました。で、何と使者を出すのです?」 「問題はそこだ」 ヌーグは沈黙し、せわしなく左手の扇を動かした。 (邑宰就位の祝辞……だけでは弱いな。なぜ王位即位を祝わぬのかと問われて否定してしまえばその後を取り繕うのが難しくなる。何か付随するものが必要か……) 「軍司、貴女はまだ独身だったな」 「はい、……えっ、でも、ナーラダから婿を取れだなんて、そんなっ……」 軍司は慌てた。ヌーグは首を横に振った。 「だから貴女は結論が早すぎると言っている。何も将来のために誼みを結んでおこうというのではない。夫探しを名目に向こうの有力な男性、ついでに女性についても、詳しい情報を掴んできて欲しいのだ」 「では、私はただのネタですか」 少々憮然とする軍司を、ヌーグはひらひらと扇いだ。 「気に入った男がいれば遠慮なく貰ってこい。同じ五種の民ではないか。……それと、守備範囲外だろうが、ウォウル邑宰の人物もしっかり見てこいよ。これが一番重大だからな」 ウォウルの城邑は、壮麗とはいえなかったが、確かに大きかった。 (カノールと比べて、どちらが大きいだろう) 軍司は、落ちつきがないと思われないように気をつけながら、城邑を見渡した。 カノールのように、外観の美しさを求めてはいない。だが居住性となると、或いはこちらの方が勝っているかもしれなかった。 民の表情は、明るくはない。英雄が死んで、まだ若い子が立った。しかも王などと言う耳慣れない位を称している。その意味の重大さが分からなくとも、何かが起こるという予感は、この民たちの中にもあるのだろう。 (ナーラダ・ヴィレクの為したことは、民に受け容れられてはいない) ここでもし、私が、王号を称することに賛同の意を表したらどうなるだろう。遠くの王国がわざわざ後ろ盾についたといって、受け容れられるだろうか。それとも、異分子の賛同など、よけい反発を喰らうだろうか。 (いけない、私にはその権限は与えられていないんだっけ) 軍司はかるく首を振って、また周囲に目をやった。 碧い城壁の向こうに、山が見える。その山容は、キーサのように急峻ではない。おだやかな山、おだやかな湖面、おだやかな空。こんな国で乱を起こしたら、反発を受けるのは当然だという気もする。 (でも、私たちがたまたま良い季節に来ただけ、という可能性もあるわね) そして、私たちがたまたま平和な時代に生まれついただけ、という考え方もできるのだ。おそらく、セルフィアーで最後の……。 しばらくして、馬はウォウルの市街に入った。その中央にある館が、王の居住している空間である。この時代のウォウルには、まだ後世のもののような内城は出現していない。商店街の中央部が、そのまま官庁街となり、王居となっている。 先触れはしてあった。軍司たちはすぐに王の間に通された。 王の間、といっても邑宰の公室そのままである。何ら手を加えられてはいない。変わったのは名称だけ、というところだ。ナーラダ・ヴィレクという少年は、本気で「王」となる気があるのだろうか? ……少なくとも、虚栄心からなったわけではないようだ。 静かに扉が開いて、一人の少年と壮年の男が入ってきた。軍司は深く頭を下げて礼をしたが、跪きはしない。彼を格上とは見なしていないからだ。 「ウォウル王、ナーラダ・ヴィレクです。以後、お見知りおきください」 少年は実に鄭重に言った。へりくだっていると言ってもよい。 「キーサ王国軍司、リーナ=トゥラです。キーサ王国の正式な使者として参りました」 リーナは名乗り、そして少年をしげしげと観察してしまった。 (何と可憐な……) 少年なのだろう、とリーナは心中呟かざるをえなかった。透き通るようにつややかな白い肌、黒絹のようなみずみずしいまっすぐな髪、描いたような細く形のよい眉、みがいた翡翠石を埋め込んだかと思わせるような大きくよく光る瞳、小さいがふっくらとした唇、そのような風貌もさることながら、一つ一つの動作がいかにも幼い。唇から流れ出る声も、変声期前特有の高い声だが、甲高さはなかった。むしろやわらかく、甘やかで、脳味噌と耳がとろけてしまうのではないかと思うほどだ。 「して、ご用の向きは?」 ヴィレクは単刀直入に言った。リーナははっと我に返った。こんな少年に目を奪われていてどうする。使命を忘れてはいけない。 「先邑宰の弔問と、ヴィレク殿の邑宰位への即位の祝賀、です」 ヌーグの悪い癖で、次の手を思いつくと前の手はきれいさっぱり忘れてしまうきらいがある。が先邑宰の弔問こそが重大事ではないのか、とリーナは道々思っていた。独断ではあるが、これはヌーグの過失を補う形でのものだから権限の内だろう。それでつけ加えておいた。 「そうですか……」 呟いて、ヴィレクはにっこりと笑った。無邪気な笑みだ。子供っぽい、いかにも朗らかな。 「父の葬儀はすでに済んでおります。のちほど、墓前にご案内しましょう。それから、祝賀の件ですが……」 笑みを絶やさぬまま、しばらく沈思する。その間、瞳が何回かリーナを見つめた。緑の、一点の曇りもない視線が、自分の眼孔から脳の中までを覗き込んでいるような、そんな気がして、リーナは知らず、全身の毛穴が縮むような寒気を感じた。決して、鋭くはない。穏やかな表情だ。だが、その穏やかさが恐ろしい。 「ウォウル邑宰位への即位の祝賀、ですね。分かりました。……貴女には何も訊きませんよ」 くすくすと笑う。さりげなくつけ加えた最後の一言の意味は、 (こちらの意はすべて知っている、ということか) リーナの背に冷汗が流れた。 それで引見は終わりだった。まだ、言うべきことは残っていたが、これ以上この笑顔を見る気はしなかった。ヴィレクはそのまま去り、引見中一言も発しなかった男が残った。 「私はミナリア・ジグトと申します。先邑宰の丞を拝命しておりました」 ああ、とリーナは嘆声を発した。自分と似たような立場の者だ。 「して、今は?」 「諌議という位におります」 「諌議?」 「王を諌める役ですよ。要するに似たようなものです」 言い、ジグトはリーナの様子を眺めた。額に汗が浮いているのを見て取ったのだろう、 「お疲れのようですね。茶でもお出ししましょう。こちらへ」 よく気がつく男であるらしい。 「では、ありがたく」 リーナは答え、供に連れてきた部下たちには、先に帰って宿を取るよう言いつけた。そしてジグトの後について歩き出す。 導かれた先は、諌議の公室であるようだった。椅子に掛ける。 「軍司殿のご高名は承っております」 ジグトはまず頭を下げた。 「 「これまでの戦はずべて、王宰の主導で行われたものです。私などは、その指示通りに動いたにすぎません」 これは謙遜ではなかった。あの子供のような感情の過剰な男は、こと軍事となると、信じられぬような鮮やかな策を練り出すのだ。将はその掌の上で踊るだけ。必ず敗れることはない。もう神話になってしまっている。 「いや、しかし策というものは将が動いてこそのもの。来るべき、いや来つつある乱世の中で、貴女のような人物を一人でも多く集めようと、どこの邑も躍起になるでしょうな」 なるほど、ヴィレクとは性質は違うが、このジグトという男も策士であるようだ。タイプとしては、先邑宰に近いだろう。現実を見据え、堅実な策を練る。いや、先の邑宰のとった策のいくつかは、このジグトの手によるものに相違ない。 茶が運ばれて来、双方しばし沈黙した。毒殺されるかも知れない、という思考は、この時代の者にはない。一気に飲み干してしまう。ジグトも半分くらい飲んだ。 「ところで……」 と今度はリーナが切り出した。 「一つ、ご承諾いただきたいことがあるのですが」 「何でしょう」 ジグトは茶碗に両手をかけたまま訊いた。 「私事なのですが、私は二五でいまだ独身です」 「はあ……」 リーナは醜女と言うにはほど遠かったが、群を抜くという美人でもない。十人並みの容姿であり、地位を考えると夫の一人や二人くらいいてもおかしくはなかった。それがいないというのは、男嫌いだから、というわけではない。単に面倒だったというだけのことである。 ジグトも、異性に関する興味という点では似たようなものである。先邑宰がもらっておけと言うので一人の女性を妻にしたが、その女性が気に入ったというより、他を捜すのが面倒だったのだ。 「そこで、このウォウルで、その……伴侶を捜してもよろしいですか?」 リーナの言に対しても、ジグトに浮かんだのは、 (ああ、政略結婚か) というきわめて散文的な思考であった。 (それにかこつけて、情報を収集するつもりか) 見え透いた手ではあるが、断るべき理由もない。ヌーグがこの策を選んだのも、それが狙いであった。 (まあ良いか、おそらくキーサとは将来、協力し合わねばならなくなるであろうし……) 「よろしいでしょう。王には私からお伝えしておきます」 「首尾はどうだったか?」 ヌーグはわざわざ軍司の公室を訪ねてきて訊いた。 「どの件に関してですか?」 リーナの答えはきわめて素気ない。 「まず、夫探しの件」 「これはと思うような人は、今の所見あたりませんでした」 「では、情勢の方は?」 「ヴィレク王の一族……旧邑宰家の者たちの挙動が怪しいですね。例の叔母の兵吏長ルーシは、落ち込んで自宅に閉じこもっているようですけれど、その他の者たちが」 「一波乱ありそうか」 「間違いなく」 「うん、それを乗り越えられるかどうかが、今邑宰の命運の分かれ道だな」 ヌーグは楽しそうに言った。リーナは濃すぎる茶を飲まされたような表情をした。 「もう、勝敗は見えてますけどね」 「どういうことだ、軍司?」 ヌーグはぱたぱたとリーナを扇ぐ。リーナは上下する鬱陶しい前髪を押さえて言った。 「ヴィレク王は、一言で言うと神のような人物ですよ」 大きく息をつく。 「もう、二度と見たくないです」 「仲々の美少年だと、貴女の部下が言っていたぞ」 「ええ、それは全く同感ですよ。ですけど……」 瞼を閉じると、今でもくっきりと浮かんでくる。あの、可憐な、愛らしい笑顔が。 「あんな恐ろしい人、見たことありませんよ」 「恐ろしい? 歴戦の リーナは頷き、ぶるっと身を震わせた。 「あれは天敵ってやつですね。二度とウォウルには行きませんよっ」 「分かった分かった」 ヌーグは羽扇の先でリーナの肩をとんとんと叩いた。 「王位への祝賀の時には、この自分が自ら出向こう」 窓へ歩み寄る。その向こうの方に見えるセルファニア湖。カノールから見えるのは南湖と俗称される、セルファニア湖でも対岸の見えるような狭い一部分であるが、この湖面は北の端、ウォウル城下の港まで続いている。 その、ウォウルにいるという美貌の少年。 自分の起こした乱を、さらに全土に広げようとしている者。 「面白い……」 ヌーグはさも満足げに呟くと、羽扇の柄を二、三度叩いた。 |
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